森林はどのくらい二酸化炭素を吸収 するのでしょう。
このページでは森林の二酸化炭素の吸収と炭素の蓄積について紹介していこうと思います。
二酸化炭素を吸収して炭素として固定する森林の成長
森林は光合成によって二酸化炭素を体内に取り込み炭素として固定しながら樹木事態を成長させていきます。
多くの樹種では樹木のてっぺんにある「頂芽」が発達しながら生育し、幹から横に生えている「側芽」は生育が抑制される場合が多いです。
この傾向を「頂芽優勢」といいます。
頂芽優勢は植物ホルモンの一種であるオーキシンによって引き起こされます。
一方「肥大成長」は樹木の幹の太り具合にあたります。
肥大成長はおおむね年輪の幅として計測することができます。
つまり年輪の幅が広ければ、その年の「肥大成長」は大きかったということです。
肥大成長には、前年の気象条件よりも当年の光合成量により大きな影響を受けると考えられています。
さらに近年では年輪試料のエックス線透過率から算出できる木部の細胞壁の密度は、年輪幅以上に成長年の気象条件を反映することが知られていて、年輪年代学においてよく利用されています。
森林が固定する炭素量の考え方
森林の生育のために必要な光合成ってなんだっけ
森林が固定する二酸化炭素量を考えるときに、欠かせないのが光合成です。
ここではまず光合成について学生にもどった気持ちでおさらいしてみようと思います。
学生のとき習った光合成は、「植物が光の力をあびて二酸化炭素と水を吸収してブドウ糖に変えて酸素を出す」というものだったと思います。
これを化学式で書いてみると
6CO2+12H2O+光エネルギー⇒C6H12O6+6O2+6H2O
ということになるのですが、「じゃあ光合成で作ったブドウ糖はなんのために作っているんだっけ?」
と聞かれると、正確に応えられる方は少ないのではないかと思います。
森林は二酸化炭素を固定。吸収ではなくなぜ「固定」というの?
上で「光合成によって植物は二酸化炭素からブドウ糖を作っいるけど、このブドウ糖は何に使うんだっけ」という問いかけをしました。
答えを言ってしまうと、植物はこのブドウ糖を成長のために使用します。
二酸化炭素をからブドウ糖を生産した植物は、このブドウ糖を分解し体内にとりこみ、大きくなっているわけです。
つまり、樹木は二酸化炭素をブドウ糖に形をかえて体内に植物体として「固定」しているわけです。
「吸収」ではなく「固定」しているわけです。
吸収というとそのままなくなってしまうみたいですが、樹木が炭素について行っている役割はあくまで固定しているということです。
伐採され燃やされてしまうと排出されてしまう樹木の二酸化炭素
樹木が成長しつづけているあいだは、樹木は二酸化炭素を吸収しながら、「樹木」というかたちで、二酸化炭素を固定しています。
なので、この樹木を伐採して燃やしてしまうということは、吸収した二酸化炭素を放出するということになります。
二酸化炭素を固定しておくという考えからいえば、伐採した樹木は、木材のかたちで利用することが、二酸化炭素の吸収に大きな役割をもつということになります。
森林の二酸化炭素固定の目安「純生産量」
この樹木のもつ二酸化炭素の固定能力ですが、森林はどのくらいの二酸化炭素を固定するのかということが、カーボンオフセットの考え方からも重要になります。
森林の二酸化炭素の固定量の数値として利用されるのが、「純生産量」という数値です。
二酸化炭素の固定を考えるうえで、この「純生産量」ということばはとても大切ですので、詳しく解説していきたいと思います。
純生産量とは樹木が実際に樹木体内に固定した二酸化炭素量
森林の純生産量とは、樹木が実際に樹木体内に固定した二酸化炭素の量になります。
上で、樹木は光合成により二酸化炭素をとりこんでいるという話をしましたが、樹木も生き物ですので呼吸をします。
つまり樹木は二酸化炭素をとりこむけど、二酸化炭素を吐き出してもいるということです。
樹木が呼吸するときは、光合成とまったく反対の流れがおきます。
化学式で表現するとこちらです↓↓↓
C6H12O6+6O2+6H2O⇒6CO2+12H2O
光合成と異なるのは、樹木の呼吸には光エネルギーを必要としないという点です。
という声も聞こえてきそうですが、実はここで大切になってくる言葉が「純生産量」という言葉なのです。
森林の「純生産量」とは
上で説明をしたように、樹木は光合成でCO2を体内にとりこみ、呼吸でCO2を吐き出しています。
太陽の光があたっている日中は光合成により取り込むCO2量のほうがはるかに多く、逆に夜は呼吸により掃き出しCO2慮のほうが多くなります。
単純に光合成によって体内に取り込んだ二酸化炭素から生産された有機物の総量のことを「総生産量」といいます。
この総生産量から呼吸によって使用された有機物量を指しひいた数値が純生産量です。
純生産量=総生産量-呼吸に使われた有機物量
二酸化炭素の固定の観点から重要なのは「植物体の増加量」
二酸化炭素の固定という観点から、実際に森林の固定として大切なのは、「植物体の増加量」ということになります。
なぜなら、植物体として増加した数値から、固定された二酸化炭素の量は計算で導くことができるからです。
この「植物体の増加量」は、上の「純生産量」とから、枯れた枝が地面に落ちたり、動物や昆虫に食べられたりした数量は差し引いたものとなります。
植物体の増加量=純生産量-(枯死枝等の脱落量+ 被食量量)
植物体の増加量は、さまざまなところで研究がなされていて、樹林の成長過程によって、大きく数量が異なることがわかっています。
未整備林の場合の二酸化炭素の固定量
森林の二酸化炭素固定量について、継続的に観察を続けている「トヨタの森」の調査を参考に紹介してみます。
未整備林の例(10年間を1年あたりに換算、トン/ha/年)
純生産量(5.6) ー 枯死量(1.6) ー 被食量(0.3) = 植物体増加量(3.7)引用元:「トヨタの森」
未整備林の場合、二酸化炭素を固定したとされる植物体の増加量は3.7トン/haとの調査結果が出ています。
3.7トンの植物体の増加量は炭素量に直すと2.1トン/haとなり、二酸化炭素量にすると7.7トン/haにあたるそうです。
これは人間21人分の呼吸量にあたるそうです。
若い森と成熟した森。二酸化炭素の固定量が多いのはどちら?
「トヨタの森」では、若い森の二酸化炭素固定量と成熟した森の二酸化炭素の固定量についても調査しています。
若い森は木々の成長が活発なため、二酸化炭素の固定量も高いような気がしていました。
しかし実際には、適切な管理をされている森のほうが、全体としての森の大きさがゆえに、二酸化炭素の固定量としては、圧倒的に成熟した森のほうが大きいそうです。
ただし未整備の成熟した森の場合、枯損や枯れ枝により、二酸化炭素を排出する量も多く、整備された林よりも二酸化炭素の固定量は、はるかに劣るとの調査結果が出ています。
二酸化炭素を最も固定するのはスギの人工林
森林タイプごとの純生産量は概算でみた場合、スギの人工林がおよそ18トン/ha・年です。
落葉広葉樹の場合およそ18トン/ha・年であり、整備されたスギの人工林は広葉樹林の約2倍の二酸化炭素量を固定しているとされています。